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今日は「ちりとてちん」の最終回だった。喜代美に赤ちゃんが産まれるのを待つ草々が、分娩室の外で「ひばりが鳴いて、菜の花が…」と小話をして喜代美を勇気づけていたけれど、今日はほんとうにそんな穏やかな良い日だった。田んぼの中の道を自転車で走っていると、上空でひばりが囀っている声が聴こえて、それがとても心を明るくしてくれる。桜並木の桜の花も満開に近く、うきうきとして上ばかり見て自転車で走っていると、足元にはタンポポが小さな可憐な黄色い花を咲かせていたりする。 ちょうど今大佛次郎の『冬の紳士』を読んでいるのだけれど、そういうわけで、次の箇所が心に残ったのです。 「お仕事を何もしていらっしゃらないんですか?」 「当分はです。その内、何とか考えないと食って行けなくなるだろうが、今は、何を始めるかより一々驚いて歩くことの方が毎日の仕事なんだ」 「いい御身分なんですね」 「悪くないですとも。私は必要以上に働き過ぎたのだ。愚かでしたね。お猿の電車だ。自分は望んでいないで、人に使われて、いい気で、ひとりいそがしくして来た。気がついて自分で休暇を取った。いそがしい世の中に悪いが堪忍して貰い度いと思ってね。それに世間が動けば動くほど自分だけ静かにしているのが悪いことでないと気がついた。」 「財産がおありだからでしょう」 「いえ、違いますね。すぐ貧乏になりましょう。もうすぐにね」 正人は、このひとの頭は、どうかしているのではないか、と、ちょっと不安に成ったが、それらしくもなかった。 「北京へ行くと、食うや食わずの貧乏暮らしをしている苦力が、雲雀を籠に入れて飼っていて、天気のいい日に野原に持ち出して、雲雀を籠から放してやって、高い天で囀るのを、ぼんやり地面に坐って聞いて、ひとりで楽しんでいる。幾人も幾人もです。夕方になって雲雀が降りて来ると、籠にしまって、大切に持って帰って行く。時間を忘れた仕事です。忘れたというより、時間と言うものをこれだけ軽蔑した話はないのだが、私もそう成って自分の雲雀を持ちたい」 「・・・・・・・」 「雲雀をそれまでに好く馴らす方法は知らないし根気もないから、ほんものの雲雀はあきらめますが、それに似た心の余裕だけは身につけようと思った。子供の凧上げと見てくれてもよい。凧を上げている間、小さい子供は無心なものだ」 ・・・・ 「老人を見たら大切にしてやるのは、生きている人間の義務だと思う。それから、人間はまだ働ける内に、金の為、生活の為ばかりに生きてきたのではなかったと言う思い出を支度して置くことなんですね。老年に入って、それを振返って見たら、これは楽しいことだ。日常の小さな散歩だって、そうですよ。その日暮らしの苦力が飼っている雲雀だって、それなんだ。雲雀が死ぬか、手から離して了うことがあっても、思い出を生きる時代が来ると、老人の頭の上の天で、必ず、囀る声が聞こえて来ると思うんですね。私は、それを信じている」 (『冬の紳士』(大衆文学館文庫コレクション 講談社 1995)より) この『冬の紳士』という作品は、冬の紳士こと尾形祐司という主人公の奇矯な行動を通して、敗戦後の日本人の生き方を示唆した記念碑的長編だそうです。そして、空高くさえずる雲雀、美空ひばりという芸名はそんなイメージからつけられたのだと、初めて気づかされたのでした。 「雲雀が死ぬか、手から離して了うことがあっても、思い出を生きる時代が来ると、老人の頭の上の天で、必ず、囀る声が聞こえて来ると思うんですね。」という言葉がありますが、それが真のゆとり、真の人生であり、私を引きこもりから救ってくれたものであり、それを詩と言い換えることができると私は思うのです。 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0458.html ←松岡正剛の千夜千冊 http://goodfeeling.cocolog-nifty.com/camarade/2004/08/intermezzo____s.html ←camarade 大佛次郎をめぐって http://blog.goo.ne.jp/shijinan/e/124859e04c42322ecd47ec2a5b146b9e ←視人庵BLOG http://www.sogensha.co.jp/page03/a_rensai/kosho/kosho32.html ←高橋輝次の古書往来 |
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鞍馬天狗とは何者か―大仏次郎の戦中と戦後
鞍馬天狗とは何者か―大仏次郎の戦中と戦後藤原書店このアイテムの詳細を見る 作家、大仏次郎は小生より上の世代にとっては戦前の「赤穂浪士」や「鞍馬天狗」、戦後は「帰郷」や「宗形姉妹」そして松岡正剛の書評で知った「冬の紳士」の大衆小説作家として、小生の世代では「パリ燃ゆ」や「天皇の世紀」から歴史の面白さを学んだ人も多いと思います。 最近、大判の「天皇の世紀」が再刊されて本屋に並んでいるが、一時は文庫リストにも大仏次郎の作品を探すことが難しい時期もありました。 ...続きを見る |
視人庵BLOG 2008/03/30 05:59 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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T.B.有難うございます。こちらからもT.B.させていただきました。 |
視人庵住人 2008/03/30 06:09 |
視人庵住人様、TBありがとうございました(^^)。「鞍馬天狗とは何者か」は私も買ってボツボツ読んでいます。大佛次郎研究会第8回発表会に出席されたそうですが、私も去年の夏に行って、村上光彦先生にご挨拶してきました。大佛茶廊も是非行ってみたいのですが。 |
magnoria 2008/04/01 20:36 |
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